群青と紫

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 私は野犬を見た。つい、息を吐き出してしまう。上空を覆う木々の隙間から、月光が差し込んでいる。満月の光は木々の間を通り抜け、犬の瞳孔とその美しく逆立つ毛並みを照らし出す。土臭い匂いが鼻をつく。焦げ茶色をした毛並みはちりちりに汚れている。四本脚で地面の土に凛々しく立つその動物は、こちらに鋭い眼差しを向ける。  彼は不思議なオーラを放っていた。彼は悲しそうな、どこか孤高な雰囲気を出していた。私も、恐れるような、畏怖のような、それでいてどこか懐かしいような、そんな気がした。犬の、切ない一吠え。静寂の夜の森に、虚ろに響く。 僕は人間を見た。思わず息を呑んだ。暗くてよく見えないが、確かに人がこちらを見ている。人は、こちらへ一歩を踏み出した。もう一歩、二歩と、徐々に、恐れとどことなく期待を込めて、こちらに歩み寄る。暗く黒い人形のシルエットは、長い髪を揺らしながら、こちらへ近付いてくる。僕も、気がつくと足を踏み出していた。  僕は身を震わせる。瞳孔をより光らせる。感情が、交錯する。  恐怖、混乱、孤独。  僕は目の前の人間から目が離せなくなっていた。気付けば僕の足は人間に向かって駆け出していた。口から滴るよだれ。僕は空腹に飢えている。何も考えられない。本能が、僕を駆り立てる。  そして、僕は彼女に飛び掛かろうと地面から飛び出した。彼女が、かつての飼い主であることも知らずに。どさり、と、鈍い音が鳴る。
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