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7.二人の別れ
西嶋さんは写真を撮るのが好きらしく、一眼レフのカメラで街の明かりを撮っていた。カメラを構える姿がさまになっていてかっこいいなあと見惚れてしまう。
角度を変えて何枚も撮影し、二十分くらいしてようやく納得したものが撮れたのか、西嶋さんはカメラから手を離す。
「ごめんねえ、付き合ってもらってさあ」
「いえいえ。夜景を見ていたから」
本当は西嶋さんを見ていたけど。
「いつも独りでここに?」
「ううん。一緒に来てくれる人もいたけど……車戻ろうか」
一緒に来てくれる人とは、あの男性のことだろうか。そんなことを思いながら、俺は西嶋さんと一緒に車に戻った。車内でペットボトルの麦茶を飲みながら一息つく。
「ふわあああ」
欠伸をする西嶋さんの姿を見て、思わず笑ってしまった。あのマンションのコインパーキングで見ていた光景を思い出したからだ。
「西嶋さん、気だるそう。いつも車に乗る前に欠伸してたもんな」
思わずそう言ってしまい、しまったと口を手で覆ったが遅かった。西嶋さんは不思議そうな顔をして俺を見ている。俺は観念して、西嶋さんにあのコインパーキングで見ていたことを告白した。
「見られてたのかあ」
「なかなか言い出せなくて。ごめん。いつも見ていたなんて気持ち悪いよな」
「別に見られて困ることでもないから、謝らなくてもいいよ」
「……実は俺、二人が仲良くしてるのを見て、羨ましいなって思ってた。姿、見なくなったけど引っ越したのか?」
西嶋さんは少し困ったように笑いながら頭をかいた。
「ちょっと前に別れたんだ」
「え?」
「俺さあ、こんな格好してるから分かるかと思うんだけど、自由な人なんだよね。それがアイツもう耐えられなくなったみたいで。二年、我慢してくれてたんだけど」
「……そうなのか」
俺は胸の動悸が早くなっていくのを感じだ。あの時幸せそうに手を振り合っていた二人がもう別れていたとは。その可能性を全く考えずにベラベラと喋ってしまい、俺はなんて奴なんだろうと自己嫌悪に陥る。
俺が俯いてしまったことに西嶋さんは気づいて、頭をポンポンを撫でてきた。
「あはは、中野くんは気にしなくていいんだよ。知らなかったんだからさあ。ここも享とよく一緒に来ていたんだけどねえ。あいつこのオンボロ車が大好きで」
「そういえばいつも車、綺麗だった」
「よく見てたね。そうそう、あいつのためにいつも洗車してたからさあ。でも別れてから綺麗にしなくてもいいやって思ってさ。……本当はこの車を手放そうと思ってたんだ。そしたらさ中野くんと出会ったから、手放せなくなって」
俺の頭から手を離してハンドルに手をやる西嶋さん。そして俺の顔を見る。
「もう少しこのオンボロ車に頑張ってもらおうかと思って。今日もちゃんと、洗車したんだぜ」
車内が急に暑くなってきたような気がした。ああ、暑い。でもこれはきっと体の内側から感じる熱さだ。
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