3.二度目のダッシュ。

1/1
前へ
/5ページ
次へ

3.二度目のダッシュ。

   彼女が描いた傑作をどうにかして他の人にも見せたい。  彼女が他の人の賞賛を得て、これまでの時間と努力が報われてほしい。  どうにかして―― 「そうだ!」  思いついたら、即行動。  わたしは画材屋に走り、真っ白の新しいキャンバスを買ってきた。 「"わたし"、何するつもり?」 「こう、する、つもり!」  買ってきたばかりの真っ白のキャンバスに彼女の傑作を重ねる。  彼女の絵の方はわたしの頭の中にしかないから、思惑通りピタリと重なり、固形の油絵の分だけ上に浮き出て見える。 「……もしかして、トレースするの?」 「当たり。これであなたの絵を現実に存在させれるわ。いいでしょ!?」 「……いいといえばいいけど……」 「なによ、はっきり言って、"わたし"!」 「……キャンバスだけじゃ、無理じゃない?」 「あっ、絵の具と絵筆!」  わたしはこの日2度目のダッシュをする羽目になったのだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加