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「それでは、私は炊事場に戻ります」
竹籠にお召し物を放り投げている進坊っちゃんの脇から、作業場に戻ろうとした時だった。
「待て、下女」
猿股※一つになった進坊っちゃんに腕を取られる。
「な、なんでしょう?」
男の人の裸なんて、お父さんと弟のしか見たこと無かった私は、恥ずかしくて目を合わせられない。
それに構わず、進坊っちゃんが言いつけた。
「背中を流せ」
「え」
驚く私に背中を向けて竹布を渡す。
「銭湯ではいつも三助※に頼んでいた。入念に擦れよ」
「でも、私は台所に戻らないと…」
「主の息子の命令に背くのか? 下女の癖に」
さっきから ″下女 ″ ″下女 ″ と連呼された事にも軽く傷つく。お嬢様や、他の男性の使用人の方は、名前か、″ ねぇや ″とお呼び下さるのに。
「…かしこまりました」
猿股さえも脱ぎ、檜の椅子に座った進坊っちゃんに恐る恐る近付く。
昔、兄弟達を洗ったように優しく洗っていると、
「むず痒いわ!」
と叱られた。
「も、申し訳ありません」
軽く舌打ちした進坊っちゃんは、何を思ったのか、突如立ち上がり、私の腰に触れてきた。
※昔の男性の下着 トランクスの原型
※銭湯における直接間接のサービスに従事した男の使用人
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