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シャンデリアが優しい灯りを放つ食堂。そこへ出来た料理を運ぶ。
数年ぶりの一家団欒だというのに、空気がピリピリしていたのは、
「珍しく帰って来たと思ったら、金を貸せだと?」
進さんがお金の援助を申し出たからだ。
食前酒を嗜んでいた旦那様の口元が歪む。
「軍需産業で潤った家からすると大した額じゃない。軌道に乗ったら返すつもりだし」
緊張感に勝さんや奥様が固唾を飲む中、進さんは、お構い無しに出来立てのコロッケを頬張っていた。
「軌道? 何か起業する気か? うちの会社も手伝わずに」
普段は穏やかな旦那様の声に苛立ちが表れている。
「なんか、今日の芋はほっこりしてないな。…出版社を立ち上げたいんだ。仲間同士で」
進さんがそこまで答えると、旦那様はドン!と荒々しくグラスをテーブルに置いた。
「出版社だと? 反社会的思想の仲間とか? いい加減にしろ!」
その音と声に、幸恵さんが抱いている赤子がビックリして泣き始めた。
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