87人が本棚に入れています
本棚に追加
「…な」
軽く叩いたつもりだったが、進さんの頬は微かに桃色になっていた。
驚いて私を見たのは、進さんだけではなかった。
「小智子さん、あんたなんて事を…」
久子さんや奥さま、勝さんも。お嬢様まで目を丸くしている。
いけない―――とわかっていても、
「私の家は確かに貧しいですけど、けして不幸だなんて思った事はございません」
両親の気持ちを考えたら、抗うのを止められなかった。
「反社会的の基準を勝手に決められたくないのと同様で、人の家庭の幸せの度合いこそ、無関係の方に決められたくございません。豊かさだけが幸せとは限らないはずです」
私を駅で見送りした、悲しげな父親の顔を忘れられない。
貧しくても、私は家族と離れたくはなかった。
そんな情がこの人には分からないのだろうか?
「進さんは、言動が矛盾しております」
最初のコメントを投稿しよう!