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「挨拶もしないで出ていくのは無礼ですよ」
私のやや乱れた身なりを気にしながら、曽我さんは車へと促した。
「あ、ありがとうございました。助かりました…」
この人は救世主だ。
鞄は戻らなかったが、着物は守れた。
礼を言うと、曽我さんは首を横に振った。
「出ていく貴女に気が付いた坊っちゃんが、私に探すように命じたのです。その任務を果たさないと私はクビですから」
「えっ」
「進坊っちゃんは、小智子さんを辞めさせないと言っていた」
「…どうして?」
女中の分際で、偉そうな口を叩いた上に手まで上げたのに――
その疑問は、屋敷に戻って分かった。
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