俺の女になれ

32/35
前へ
/188ページ
次へ
 奥様は、私が出ていったのを知らなかったようで、 「小智子さん。こんな夜更けに女1人で歩いたら危ないわよ。今のご時世、外にはルンペン※やら強奪やら物騒な輩がいるんだから」 女中部屋に戻る私に、軽く注意をしただけだった。 「奥様…申し訳ごさいませんでした」 ″大事なご子息に無礼な真似をしてしまって ″ 心で詫び、深々と頭を下げる私を不思議そうに見て、寝室に戻っていく。 足音を立てぬよう廊下を渡り、女中部屋に向かうと、浴衣姿の進さんが、襖に寄りかかって咥え煙草で立っていた。 ※ルンペン 浮浪者 失業者 1930年当時に良く使われていた言葉
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加