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進さんは私を見るなり、歪んだ笑みを浮かべた。
「襲われそうになったって?」
美しい故に、歪めば人間離れした怖さを醸し出す。
「進さんに手を上げた罰ですね。でも、探してくださったお陰で助かりました。ありがとうございました」
お礼は言う。
でも、謝罪はしたくなかった。
私と家族を侮辱した事は、やはり許せなかったから。
「ノコノコと戻ってきたところ見ると、一文無しになったんだな。まぁ、いい。不況が終わらない限り、お前がいる場所はここしかない」
連れ戻しておいて、本当に嫌な言い方をする。
私は小さく頷いて、
「…はい、ここで下女として尽くさせていただきとう存じます」
やはり、田舎にいる家族の為に無職になるわけにはいかないと思った。
先ほど、飢えた浮浪者の生活を目のあたりにしたからかもしれない。
会釈をし、進さんの背後の襖を開けて部屋に入ろうとすると、
「お前は、今迄通りの生活でいられると思ってるのか?」
不意に、手を取られて驚いた。
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