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薄暗く、身を刺すような冷気が籠る部屋で、進さんの声がやけに響いた。
「…″俺の女″…?」
何を言ってるの?
「そう。身も心も俺に捧げれば良い」
私の手を掴む進さんの指先に、体温が移っていく。
「それは、恋人になれ、と?」
「結婚もしたければしてやる」
「急に、どうなさったんですか?」
逆に体温を奪われた私の身体は、どんどん冷たくなっていくよう…
「お前が拒む理由はあるまい。それとも何か? 田舎に決まった婚約者でもいるのか?」
吐く白い息も、暗闇に吸い込まれていく。
「そんな者おりません」
「なら問題ない」
冷え固まった私の身体を、進さんが抱き寄せた。
「俺は、兄貴とは違う。自由に生きてやる。女中と恋愛結婚をして、アイツらに一泡食わせてやる」
一気に温かくなったが、心は伴わなかった。
この人が、私を欲しくてこうしてるわけではないと分かったからだ。
「お前が俺の言う事を聞いていれば、実家の家族も路頭に迷う事はない」
卑怯に値する言葉。
進さんの唇が、抗おうとする私の口元を塞いだ。
生まれて初めての口づけだった。
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