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可愛い
強く手を振り払うと
必死に掴んでくる。
掴んでくる小さな手に満たされ
また、強く払う。
軽く突き放すように前に出る。
きっと、抱きついてくる。
その時、激しいブレーキ音と
不吉な鈍い衝撃音。
そこに何があるのか
わかっている自分を払拭するように
ゆっくりと振り返る。
「お嬢様、朝ですよ
怖い顔して。また、あの夢ですか?」
ばあやが眉間に皺を寄せる。
沙月は枕元の一冊を手繰り寄せた。
「そんなもの、捨てておしまいくださいまし」
「捨てるのか?しまうのか?」
「捨てろと言ってるんです」
わかっているくせに!と言わんばかりに
睨みつけて行ってしまった。
沙月は唇の端で一笑すると
手元の一冊に視線を落とした。
それは偶然にも亡き母の書庫でみつけたものだった。
母親はとにかく読み物が好きで活字中毒ともいえた。
その母親の書庫から
一冊のノートを見つけたのだ。
表紙には『沙月ノート』とある。
ぺらっとめくると一枚目の中央に
『殺気の音』と書いてあった。
気になって更にページをめくると
可愛い
強く手を振り払うと
必死に掴んでくる。
掴んでくる小さな手に満たされ
また、強く払う。
軽く突き放すように前に出る。
きっと、抱きついてくる。
その時、激しいブレーキ音と
不吉な鈍い衝撃音。
そこに何があるのか
わかっている自分を払拭するように
ゆっくりと振り返る。
振り返った先には
地に崩れた操り人形のような妹が
アスファルトに張り付いている。
すぐ側には妹の何倍もの大きなトラックが
辺りの喧騒を吸い込んだかのように
止まった時の中で静止していた。
そう、書いてあった。
表題には自分と同じ名前。
見たこともない妹の存在。
気にするなと言われて
はいそうですかとなるわけもない。
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