12人が本棚に入れています
本棚に追加
「え?」
ドキッとした。私の表情はこわばった。
「オレの実家に同窓会のハガキ来てたよ」
彼の手がゆっくりとカップを持ち上げた。
「私はずっと実家に帰ってないから、知らなかった」
「そうなんだ。あんまり帰らないの?」
「うん、なんとなく足が遠のいちゃって」
私の目線は右上を見て、パチパチとまばたきをした。これは私自身の問題であって、神垣くんには関係ない。
「あ……わりぃ」
バイブ音と共に、申し訳なさそうにスーツのポケットからスマホを取り出した。
「いいよ、気にしないで」
「ごめん、ゆっくりしてって」
彼は残りのコーヒーを急いで飲んだ。そして、ほろ苦い香りを残して席を立った。
「あ、平岡、またね」
「バイバイ」
笑顔で手を振って見せた。大丈夫。ぎこちなくは、ない、はず。
「はい、お疲れ様です……はい……」
通話しながらカフェを出る背中を眺めていた。久しぶりに聞いた彼の声は、自動ドアが閉まると同時に聞こえなくなった。制服からスーツになった後ろ姿を感慨深く思いながら、そして目線をカップに戻した。
――またね。
と言った彼の真意は分からない。ただ単に別れ間際の決まり文句なだけかもしれない。きっと深い意味はない。
最初のコメントを投稿しよう!