返事

1/4
前へ
/4ページ
次へ
 家の扉を開ける。「ただいま」とは言わないで無言で帰宅。家には私以外誰もいないから、孤独の空間に「ただいま」と言っても意味はない。けれど今日は違った。いつもは暗い室内も、今日は明るかった。その異変に気が付き、私は扉を開けてすぐに立ち止まる。 「何事?」  電気をつけ忘れただけなら良かったのだが、奥から何かを焼く音が聞こえてくる。そして玄関には一足の男物の靴。  廊下とリビングを繋ぐ扉が開くと、リビングからひょっこり可愛らしい顔をした男が顔を覗かせた。 「おかえり、美登利(みどり)」  彼氏の大貴(だいき)だった。私は突然のことにビックリして、「え?」と言ってしまう。大貴がこちらにやってきたので、急いで扉を閉めて家の中に入った。 「何で、大貴がいるの?」 「さぷらーいず」  大貴が満面の笑みで言った。私は状況をまだ上手く飲み込めておらず、辺りをキョロキョロとする。 「おかえり」 「あっ、ただいま……」  満足したように大貴が頷き、またリビングに消えていった。私は部屋の鍵を閉めると、大貴の後を慌てて追う。キッチンで大貴が料理をしている所だった。 「いやー、この前のデート俺の仕事のせいでドタキャンになっちゃったでしょ? だからお詫び。一緒にご飯食べたいなーって思って」 「言ってくれれば良かったのに……部屋も片づけたし」  私は散らかった室内を見て、恥ずかしくなる。干しっぱなしの洗濯物と物が散乱した机の上、今度の出張の為にクロゼットから出した空きっぱなしのスーツケース。  私は急いで洗濯物を取り込むと素早く畳んで箪笥にしまった。机の上は適当に片づけ、スーツケースは閉じて邪魔にならない場所に置いておく。 「確かに言えば良かったかもなー。ごめんな、急に」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加