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家の扉を開ける。「ただいま」とは言わないで無言で帰宅。家には私以外誰もいないから、孤独の空間に「ただいま」と言っても意味はない。けれど今日は違った。いつもは暗い室内も、今日は明るかった。その異変に気が付き、私は扉を開けてすぐに立ち止まる。
「何事?」
電気をつけ忘れただけなら良かったのだが、奥から何かを焼く音が聞こえてくる。そして玄関には一足の男物の靴。
廊下とリビングを繋ぐ扉が開くと、リビングからひょっこり可愛らしい顔をした男が顔を覗かせた。
「おかえり、美登利」
彼氏の大貴だった。私は突然のことにビックリして、「え?」と言ってしまう。大貴がこちらにやってきたので、急いで扉を閉めて家の中に入った。
「何で、大貴がいるの?」
「さぷらーいず」
大貴が満面の笑みで言った。私は状況をまだ上手く飲み込めておらず、辺りをキョロキョロとする。
「おかえり」
「あっ、ただいま……」
満足したように大貴が頷き、またリビングに消えていった。私は部屋の鍵を閉めると、大貴の後を慌てて追う。キッチンで大貴が料理をしている所だった。
「いやー、この前のデート俺の仕事のせいでドタキャンになっちゃったでしょ? だからお詫び。一緒にご飯食べたいなーって思って」
「言ってくれれば良かったのに……部屋も片づけたし」
私は散らかった室内を見て、恥ずかしくなる。干しっぱなしの洗濯物と物が散乱した机の上、今度の出張の為にクロゼットから出した空きっぱなしのスーツケース。
私は急いで洗濯物を取り込むと素早く畳んで箪笥にしまった。机の上は適当に片づけ、スーツケースは閉じて邪魔にならない場所に置いておく。
「確かに言えば良かったかもなー。ごめんな、急に」
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