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一人の独白は、物語となって照明に照らされる。スポットライトを独占するこの男は、紛れもなく才を放っていた。
鈍器で殴られたかのような、そんな衝動に脳髄が揺さぶられて、息が出来ない。
詰まらない小細工は要らないと、言い退けてしまいそうなほどの自信やカリスマ性に私は羨望した。
憧憬や嫉妬、絶望。色々な感情が交じり合って、深く芯の臓を突き刺さっていく。ぐつぐつと煮詰められたものが出来上がって、細い硝子製の小瓶に詰め込まれているようで嫌になるけれど、嫌悪や憎悪に類する感情だけは抱けなかった。
「……羨ましい限りだよ」
「なら、お前もすれば」
「いや、やめとく」
簡単には出来ない。
此奴のように、好きで演じているわけではないから。それをこの男は知っているから真面目に向き合えとでも言うように、鋭い視線を向けるのだ。
詞の端々は、毒を孕んだ棘を仕込んでいる。ずっと、不透明で濁っている私の中を見透かして迄、この男は私を揺さぶるのだ。
「で、今回の仕事は如何なんだ」
「疾うに辞めた」
「……飽きないな、お前も」
毎回そればかりで、続かない性分の私を見捨てないで部屋に置いてくれる花形役者は、慈愛の精神で溢れていた。
無愛想で辛辣な男でも、私にとっては只の腐れ縁で、空気みたいな男だった。
隣にいることが前提であり、絶対であるように、常にいたことを思い出して瞼を下ろした。
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