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友達
数日後に迎えるクリスマスを前に、街はイルミネーションで煌びやかに彩られていた。
そんな中、繁華街の中にぽつんと佇む小さな公園だけが、忘れ去られたかのように、色もなく静寂の中にある。
公園を垣根のように囲う常緑樹は、防犯の意味合いもあり低く剪定されていたため、真ん中に位置する噴水から、時折水が噴き上げるのが公園の外からでも見える。
水野成美は、酔って足元もおぼつかない織田隼人を支えながら、公園の中ほどまで来て困り果てた。
(公園の中ならベンチがあると思ったのに……)
唯一座れる場所は、広めに設計された噴水の縁くらいしか見当たらない。
この季節、昼間の日差しの下ですら、時折かかる水飛沫は避けたい。増してや夜も更けた今は肌に当たる風すら痛いほどで、水は更に冷たいに違いない。
そうは言っても、自身より20cm近くも背の高い隼人を成美がここまで連れて来るのは一苦労だった。
それで、また座れるところを探して歩くよりは、少しばかり我慢してもらって酔いを覚ます方が早いと判断し、隼人を噴水の縁に座らせ、支えるように成美もその隣に腰を下ろした。
「どうしてこんなになるまで飲むかなぁ?」
成美の肩に頭をもたげた隼人が、「んー……」と言葉ともいえない返事を返す。
「何かあった? らしくないよ?」
「……水野は……友達……」
今度はちゃんと聞いていたのか、囁くような小さな声が返ってきた。
「友達なら……一緒にいられる……」
その言葉に成美は俯く。
「そうだね」
少しばかりそのままでいると、不意に成美の肩が軽くなった。
成美が顔を上げると、隼人がその瞳を潤ませてじっと見つめていた。
「水野――」
噴き上がる噴水のせいで、冷たい夜の空気が動く。
隼人の大きな手が、後ろで髪の毛を一つに留めていた成美のバレッタを外した。
そのせいで、ゆるいパーマをかけた髪が、ふわりと広がって背中に落ちる。
先程まで風にさらされていた成美の首元を髪の毛が覆い隠し、ほんの少しだけ暖かさを感じさせた。
「この方が似合う」
隼人の手が、風で成美の頬にかかった一房の髪の毛をすくう。
「きれいだ」
隼人の笑顔に、成美は動けなくなった。
成美の頬に手を添えたまま、隼人は成美をひきよせ……キスをした。
一瞬のキス。
すぐにトン、っと隼人は成美の膝に崩れ落ちた。
そのまま眠ってしまった隼人に、成美は呟いた。
「飲みすぎだよ、バカ……何やってるの……もうすぐ他の女と結婚するくせに……」
成美は泣きそうになるのを我慢した。
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