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……あれ? 弟の会社ってどこだったっけ? こいつ、なんの仕事してるんだ?
そういえば、弟のしている仕事を俺はなぜか知らない……。
長年、離れて暮らしているようならばまだしも、一緒に実家暮らししているにも関わらず、そうした話を一切していないというのはむしろ不思議だ。
「あれ? そういえばおまえさ。今、なんの仕事……」
そう尋ねようとした俺であるが、その言葉を最後まで言い終わる前に途中で止めてしまう。
……いや、仕事なんかよりも、こいつの名前ってなんだったっけ?
ふと思い返せば、俺は弟の名前を知らない……弟なのに?
……というか、俺に弟なんてほんとにいたんだろうか?
……いや、弟なんかいない……そもそも俺に弟なんていなかったんだ。
どうして弟がいるなんて思い込んでいたんだろう……その事実を思い出し、チェーンキーに指をかけたまま俺は愕然とする。
それに今、俺はアパートで一人暮らしをしていて、ここは実家でもない。弟はもちろん、この家に帰ってくる家族なんて誰一人としていないんだ!
「……いや、違う……おまえは弟なんかじゃない。俺に弟なんていない……おまえは、誰だ?」
ようやく真実の記憶を取り戻した俺は、まったく意味不明なこの状況に頭を混乱させつつも、なんとか恐怖を抑え込んで〝弟〟を偽称する者に問い質す。
「……ザンネン。バレタカ」
すると、先程まで架空の〝弟〟だったドアの向こう側の何者かは、騙すことを諦めたのか? あっさり偽物であることを認める。
しかも、いつの間にかその声は先程までの〝弟〟のそれではなく、低く不気味な響きを持った気色の悪い男のものに変わっている。
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