帰宅

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 廃屋の中で動く人影を見たり、どこからか断末魔のような女の悲鳴が聞えてきたり……恐怖が頂点に達した俺達は転がるようにして逃げ帰ってきたのだが、その帰り道でも怪異は続く。  山中の集落と外界を結ぶ廃トンネルでは、突然、車のエンジンが止まってまったく動かなくなってしまったり……焦りに焦った後、なんとかエンジンがかかってまた走り出したのはいいものの、よく見ればフロントガラスにたくさんの白い手形がついていたり……挙句は峠道でハンドルが利かなくなり、危うく崖の下へダイブしそうになったり……ギリギリ落ちる寸前でハンドルが戻り、どうにか生きては帰ってはこれたのだが……まあ、とにかく大変な目に遭った。  そんな心霊現象のオンパレードやあの廃村にまつわるウワサのことを考え合わせると……もしかして、村人全員を惨殺したという殺人鬼の霊が憑いて来てしまったのではないだろうか!?  つまり今、ドアをこじ開けて入ってこようとしているのはその殺人鬼ということだ。  ウワサでは、殺人鬼も家族になりすまして各家に侵入したということだし……死後も生前と同じように、まだその凶行を繰り返しているのだろうか?  今なお玄関ではガチャンガチャン…と、激しくドアノブを引っ張る音がけたたましく鳴り響いている。 「…なんまんだぶ……なんまんだぶぅ……」  俺はさらに固く目を瞑り、ガタガタと震えながら布団の中で身体を丸るめると、恐怖から目を背けるかの如く一心不乱に念仏を唱え続けた──。
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