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雪の日の出来事
あれは中学二年の冬。急に雪が降り出した日のことでした。
図書館から帰る途中、遅くなったので近道をしようとして路地裏を走っていたら、滑って足首を捻挫してしまったのです。痛くて立ち上がれません。誰も通らないし。足首のあたりがどんどん腫れてズキンズキンしはじめました。
お腹空いたなあ…
そうだ、こういうときは確か冷やせばいいんだ。
ミキちゃんはうずくまって、足元の雪をかき集め、腫れている足首に押しつけて痛みが引くのを待っていました。
遅くなっちゃって、お母さん心配してるかなぁ…
そのとき「おーい、みきちゃーーん!おーい!おーい!」という声が聞こえたのです。
あれはタケちゃんの声だ。
「タケちゃーん、私はここにいるよー!」
と叫ぼうとしたのだけど、言葉にならず、大声で泣き出してしまいました。
声をききつけたタケちゃんは、すぐにやってきてくれました。
「痛いのは足だけか?他は何ともないか?」
タケちゃんは足首の様子を見て
「骨は折れてないな。事故とか誘拐とかでなくて良かったー!」
と言って鼻水をすすっていました。
タケちゃんが泣くのを見たのは初めてでした。
恥ずかしかったけど、やっぱり歩けないので、タケちゃんに負ぶってもらいました。
「タケちゃんって、パパと同じ匂いがする」
「え?」
「印刷のインクの匂いかな」
「そうか」
タケちゃんはミキちゃんをよいしょと負ぶい直して、後は黙って家まで帰ってきました。
「無事だったって、パパさんに報告しておかなくちゃ」と言って、パパの写真を手に取って、ずっとずっと見つめていました。
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