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「すみません、このあたりで迷いインコを見かけませんでしたか?」
手作りのビラを配って近所の人に尋ね回る。けれど誰もが首を振るばかり。
「どこ行ったんだよぉ、ハナ……」
……鳥かごから出している時に、うっかり窓を開けてしまっていたのだった。ハナはそこから飛び立ち、俺のそばからいなくなってしまった。
逃がしてしまったのは完全に俺の落ち度だ。ハナが今どうしているのか、猫やカラスなどに襲われてはいないか、無事だとしてもエサがなく飢えてはいないか心配でたまらない。
ハナが好んでいたおやつを持ってうろついたところで意味はない。そんなことは分かっている。相手は空を飛べる動物で、どこまでだって好きに行けるのだから。
数日見つからない日が続けば、もう諦めるしかないのかという気持ちが満ちてくる。ハナのいない鳥かごを見つめ、溜め息を吐いた。
「このカゴも、もう捨てるしかないのかな……」
呟いた時、玄関のチャイムの音が静かな部屋に鳴り響いた。
気力もなく、のそのそと立ち上がって玄関に向かう。
「はい……」
開けた瞬間、ピュイピュイ! ジジジッとさわがしい鳴き声に出迎えられた。
目の前に、鳥かごを持つ女性が立っていた。
「うわ、すごい元気。ずっと大人しかったのに」
「えっ、あっ、ハナ!? ハナちゃん!?」
鳴き声は女性が持つカゴから、けたたましいほどの音量で聞こえてくる。
その中に、ハナがいた。
「ハナ……!!」
「良かった、飼い主さんで間違いないみたいですね。電柱の張り紙にそっくりな子を見かけて、保護したんです」
みっともないことに、泣いてしまいそうだった。
「私がエサをあげてもなかなか食べなくて、元気もなくて……。ずっと飼い主さんに会いたくて寂しかったみたいです」
食いしん坊のくせに、とカゴの中を覗きこむ。ハナは羽根をバサバサさせて、出してほしいとアピールをした。
「あの、すみません。ドア一旦閉めてもらっていいですか? ハナがカゴから出たいみたいで」
女性はにこやかに「はい、どうぞ」とそっとドアを閉めてくれた。鳥かごを開けて指を差し出すと、ハナはカゴから出てきてそこにちょん、と止まった。
小さなささやかな命の重みに、幸福を感じた。
ハナはそこから力強く羽ばたいて、俺の肩に乗る。
そうして俺の耳にしっかりと届くように、大きな声を上げた。
「タダイマ!」
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