彗星が、落下する日

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* * * 「テートク、入っていい?」  分厚いドアの向こう側から、雫の声がした。 「ああ、入りなさい」  桐ケ谷は本棚の前に立っていた。雫の姿を確認すると、開いていたノートを閉じてソファーに移動した。 「この部屋、久しぶり。本の匂いがする~」  雫は無邪気な笑顔を見せながら、掛かった絵をキョロキョロと見た。 「あー、夕日が綺麗。写真、写真」  窓から、真っ赤に染まった夕日が差し込んでいた。桐ケ谷はその姿を息を詰めるように見つめていた。 ――5歳にしては、成長が早い。  体の成長に比べて、精神面の成長が早かった。知識レベルは10歳児程度はある。  写真を撮り終えた雫は満足そうに、正面のソファーにドサッと腰を降ろした。 「おじいちゃん、話って何? 宇宙の話? 私、あの話、大好き!」  好奇心が抑えきれない様子だ。桐ケ谷は深い息をつき、彼女をじっと見つめた。 「良く分かったね、雫。そう、宇宙の話だよ。ああ、そうだ。今日は、そのスマートフォンで、おじいちゃんの動画を撮ってくれんか?」 「ネットにアップするの?」  スマートフォンを操作する雫に、桐ケ谷は返事をしなかった。 「せっかくなら、2人が入る位置にしようよ」 「どこまで話したかな?」 「宇宙船で月を回って、地球に帰ってきたところまで」 「おじいちゃは確かに宇宙船に乗った。でも、月の探索が目的ではなかった。話すべき時が来た。雫、君は5年前の出来事について知らなければならない」 「5年前? テートク、顔が笑ってないよ」  雫は戸惑いの表情を見せた。老人は目を閉じ、静かに話し始めた。  五年前――。
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