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「そうだよ。私がレーザーの発射を指示した。結果、雫の同胞を、宇宙のチリに変えてしまった。すまない、ことをしたと思っている。でも……」
弁明の言葉を述べようとしたが、続けることができなかった。頭の片隅に「仕方なかった」との思いが拭いきれず残っていた。
「あと1つ、言っておかないといけないことがある。レーザー発射前に、我々は強力なノイズを受け取っていた。あれは、ノイズじゃなかった。彼らからのファーストコンタクトだったんだ。”We are home”――『ただいま』だった。彼らは地球の言語の解析を完了していたんだ」
なぜ『ただいま』だったのか、理由はいずれ、佐竹が説明してくれるだろう。
彼らと地球人の遺伝子は99.5%一致していたのだ。
いつ、どうやって、彗星に地球の遺伝子が移ったのか、それはまだ研究中だ。だが、雫の遺伝子の解析から、地球人類と彼らは、祖先が共通することが分かっていた。しかし、彗星一族の精神的成長は地球人の比ではないようだった。雫がその証拠だ。
「テートクは雫のことが嫌いなの? 雫のことも……殺すの? 嫌だよ、そんなの、嫌だよ!!」
雫は両手で顔を覆って、大声で泣き出した。
「雫のことは、大好きだよ。どんな手を使っても、守るつもりだ」
その言葉は、雫の耳には届いていないようだった。地球に戻ってから、ポッドのことを口外しないように頼んだ。
日本政府は、諸外国から隠ぺいすることを約束した。おそらく、技術力を独り占めするためだろうが、それでよかった。結果、雫の存在は隠し通された。
実験には協力するが、彼女に通常の生活を送らせることも条件とした。
「嫌だよ! 嘘だよ!! 雫、よくわかんないよ!!!」
発狂寸前で大声を上げたとき、ドアがノックされた。
「あとにしてくれ!」
「お父さん。緊急の電話です。佐竹さんから。すぐに繋いでくれって」
入ってきた美奈子は、泣きじゃくる雫を驚いたように見てから、自分のスマートフォンを桐ケ谷に渡した。
「佐竹君、あとにして――」
「提督、そんなことを言っている場合ではありません。ポッドが暴走しています! 手が付けられません。何かそちらで、異変はありませんか? 待ってください。ポッド内に巨大なエネルギー反応が……どんどん大きくなっています。このまま、肥大化すれば――電話、切ります」
一方的に切断された。
桐ケ谷は奇声を上げる雫と、なだめる母親を見た。異変――おそらく、これがそうだろう。雫の感情に応答したのかもしれない。
エネルギー反応の増大――爆発させて地球を破壊するつもりか?
これは、私への復讐か?
桐ケ谷にはそうとしか考えられなかった。雫の意思なのか。それとも、混乱した感情にポッドが反応しただけなのか。
研究所から何百キロも離れた屋敷の中で、それを確かめる術はなかった。
(了)
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