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「お母さん、だいすけの様子が変」
亜夜はそう言って寝転ぶ俺の元に母を連れてきた。
「昨日の夜からずっと寝てて動かないの。病気かな?」
「だいすけももう年だからね。亜夜が五歳の頃にうちに来たから……十二歳くらいかしら」
「大型犬の寿命はあまり長くないからな」
父がそう言うと亜夜は心配そうな顔をして俺の頭を撫でた。
確かに、俺ももう年だ。毛艶も昔に比べれば悪くなったし、最近は階段の上り下りも辛い。
「そろそろ、覚悟をしておかないといけないかなぁ」
父の言葉に亜夜の表情が曇った。父め、何を言う。俺はまだ大丈夫だぞ。
俺は立ち上がって亜夜の頬をぺろりと舐めた。亜夜の表情が少しだけ和らぎ、亜夜はもう一度俺の頭を撫でた。昔に比べてずいぶんと優しい手つきだった。
「だいすけ、大丈夫?」
もちろん。今日だって少し寝た後なら亜夜に「おかえり」を言いに行けるくらいの体力はあるぞ。
俺が鳴くと亜夜はようやく笑顔を見せてくれた。
亜夜が笑ってくれると嬉しい。だから俺は尻尾を振ってもう一度鳴いた。
ほら、早く朝飯を食べなきゃ学校に遅れるぞ。
「うん、そうだね。準備しなきゃ」
ようやく亜夜が朝飯を食べ始めたのを確認して、俺は窓の近くで横になった。情けない。これくらいのことで疲れるなんて。
でも亜夜が笑ってくれるならそれでいい。笑っている顔が一番だ。
そうは言っても年というものは厄介で、俺はだんだん立ち上がることすら難しくなり、亜夜に「おかえり」を言いに行けたのはこの日が最後だった。
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