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「そうしたら、『この品は父上が関ヶ原の合戦で、本田忠勝のせがれの首をとったときにお殿様から下賜された大切な品で、家宝にしている。これは死んでも手放すわけにはいかない』と言われたそうです。そこを『それは娘さんのお命より大事ですか』と、三度説得して譲り受けたといいます」
「そうか。確かに立派な品に見える。それで、いくらだ。いくらならわしに譲る」
助左衛門は、壺を手に取ると上から底、くるりと回してはじっくりと見る。
「もちろん、売り物です。でも、そうですな、元手というものがありますので」
「そりゃ、わしにも分かる。何もただで寄こせとは言ってない」
助左衛門は、そうはいってもいくらかでも安く買いたたこうという魂胆が顔つきに出る。
「ご家老、そりゃ悪い冗談です。あたしも峠も三つばかり、いやひとつかな、越えてやってきてます。こんな重いもの背負って。ですから」
「分かった、分かった。みなまで言うな。それでいくらだ」
「この品は仕入れが八十両でした。あたしも商売ですからいくらか儲けもなければ。それに高く売れたら、あのお侍さんに少しでもお返しをしたいと、中に入った商人が申しておりました。そんな話でしたので、掛け値なしにあたしに譲ってくれました。それで、あたしの儲けなど度外視しても、中に入ってくれた商人にも少しは礼もしたいし、何よりも娘さんを身売りしようかなというお侍さんに楽な生活もしてもらいたい。そこで」
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