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「おう、分かった、わしも物わかりはいいほうだ」
「ありがとうございます。それでは二百ということで、いかがですか」
「え、なんだって。もう一度」
「ええ、ですから二百ということで」
「おい、弥吉、お前、先ほど、仕入れ値は八十だと言ったじゃないか」
助左衛門は、床の間から刀を持ち出し、「弥吉そこになおれ」とどこかで見た殿様のように意気込む。
「ご家老、申し訳ありません。冗談です」
「ははは、そうか」
「いや、しっかり覚えておいでですね。それは冗談として、どうでしょうか、百二十というところで」
「そうか、百二十か、もう少しなんとかならんか」
「そうですな、それではどうでしょう。ちょいとこちらもご覧になってくださいませんか」
そういうと弥吉は、風呂敷から赤い反物のようなものを広げる。
「これは何だ、弥吉。いかにも古めかしい、そこらへんで拾ったぼろじゃないのか」
「そう見えますか。いかにもぼろです。ぼろと言われれば二の句が継げませんが、ぼろの中でもぼろ中のぼろとでもいいましょうか」
「ふん、ぼろにいいも悪いもあるか」
「それがご家老様。聞いて驚くなかれ、これは」
そこに奥方が茶を運んできたので、弥吉は話を中断する。
「おっと、これはまたおいしいお茶ですね」
「お、弥吉、お前にも茶の味がわかるか」
「ご家老、見くびってもらってはいけません。あたしもこうやって全国とは言いませんが、武蔵、常陸は当たり前。北は上野、下野、南は相模、上総。安房はちょいと遠くて行ってませんが、関八州は巡っております。たまには箱根を越えて駿河の国にも足を延ばすことも。そこのお茶はいつも土産に買ってきます」
「そうか、静岡の茶は確かにうまい。でもこれは狭山じゃ。うちの妻の出でな。地元では河越茶というようだが。お前は聞いたことないかな、色は静岡香りは宇治よ、味は狭山でとどめ刺すと」
「いえ。そうですか、ほんとうにおいしいものですね。それではご家老、お話の続きを」
奥方が下がったところで話を始める。
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