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「何だ、早く見せろ」
「いいですか、これも二度とは手に入りませんよ。その伊能忠敬が仙台藩主から頂戴したという、伊達政宗の左目です」
「おいおい、言うに事欠いて。政宗は確かに戦で矢が目に刺さった。その時、『何のこれしき』と自ら抜いた矢に刺さった右の目玉を、『親よりいただいたものを捨てるのは忍びない』と言って飲み込んだという。残っているはずはない」(実際は病気で失ったとか)
「そう、ですから、こちらは左目です。亡くなったときに家臣が頂戴したもののようです」
「そうか、だとしてもいらん」
「分かりました。それでは、こちらはどうでしょうか」
と言って出したものは、葛飾北斎が描いた冨嶽三十六景にはない三十八番目の会津富士の絵。坂本龍馬と南方仁が並んだ写真。それから仁が手術で取り出した竜馬の盲腸が入った瓶。そしてこれがまたすこぶる珍品、橘咲の乳あてであった。
「あたしも長いことこの商売してますが、こんな珍品はめったお目にかかれるものではありません。どれ一つとっても掘り出し物です。どうですご家老、いい品物でしょう」
「そうか」
「はい。こんな品物は十年に一度お目にかかれるかどうか」
「そうかい。だがな、その珍品とやらを先ほどから七つも八つも出している、弥吉。お前さんの年は、八十かい」
「ご家老、そりゃ野暮ってものです。ええ、話の行きがかりってものです。あたしはまだ三十二です」
「分かった、分かった。それではこの柿右衛門な、お前の言い値の百二十でいい。でもな、奥には内緒だが、さっきのお万の方の腰巻と、それからそこの咲とかいう者の乳あてをつけろ」
「はあ、腰巻に乳あてですね。よろしゅうございます」
「では」
「は、いつもありがとうございます」
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