はじまりの、

3/20
前へ
/231ページ
次へ
「このバーに来るのは、初めて?」 見かけない顔だと思った。火をつけ慣れているあたり、喫煙者だとも伺える。ちぐはぐな印象に、興味を唆られた。 「ええ。今日が初めてです」 「見たところ若そうね?学生さん?」 「そうです。成人はしてますけどね」 レンズの奥に秘めた、漆黒の双眸。その視線に囚われたら、どこまでも吸い込まれそうだと思った。 そんな彼は、顔色一つ変えずに注文したストレートのウィスキーを煽る。それから動作の隙間に垣間見えた数カ所のピアスホール。どこまでも意外性の持ち主だと知って、ますます惹かれてしまう。 「---ねぇ、君。この後時間ある?」 グラスを持つ、華奢でありながらも骨ばった手に自分も同じものを重ねる。 ---久々に年下の男に、食指が動いた。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加