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お互いの名前など知らないはずなのに、綺麗な形のよい唇から紡がれた自分の名前。それから、弟の名前に、目を細めた。
「君、---何者?」
その漆黒は、くすりと笑みを浮かべた。突如募る警戒心に距離を取ろうとすれば、頸を掴まれ耳元で囁かれる。
「知りたいですか?僕が何者なのか」
とりあえず、只者ではないことはわかった。弟の名前が絡んできた辺り、この接触は意図的であったことが伺える。
至近距離で、目が合う。吸い込まれそうな程に、でも、呑み込まれそうなほどに、昏い瞳。その闇の深さは、測り知れない。
「場所を移しましょう。どこか“弟”さんが一切の介入もできない場所は、ありませんか?」
---目の前のこの男も、警戒しているのだ。私の弟である“香椎藍璃”に。
「弟に、私と君が会っていることが知られたらダメなの?」
「えぇ。多分殺されますね」
「…弟に?」
「貴女も姉ならご存知でしょう。香椎藍璃がどういう人間か」
そういえば最近弟は、妙な“情報屋”とつるんでいた気がする。
「わかった。それなら、ウチの病院に案内するわ」
「…病院ですか」
眉を顰めて疑うそぶりを見せる彼。それも無理はないと思った。
「藍璃も知らない場所とルートよ。その場所を知っているのは私と院長の父だけ」
「そんなに大事なことを、他人の僕に容易く教えて良いんですか?」
「だって何だか面白そうなんだもの。…でも、単に教えるだけじゃつまらないわね」
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