一花は四つの家がある

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 マンションのエントランスでオートロックを開けてもらう。  驚いたようなお父さんの声だった。  六階のドアの前まで行くと玄関からお父さんが出てきた。 「どうした? 急にやって来て。ずぶ濡れじゃないか。それに泥だらけだ」 「うん」と言って、お父さんより先に玄関に入って、レモンのリードを首輪から外した。  廊下に立っているのは彼女さんだろう。 「こんにちは。一花ちゃん」 向かい合ったその人の肩先まで伸びた黒髪が艶々してる。キューティクル凄し。  長いまつ毛は上向きにくるんとしている。大きな瞳は少しきつく見える。アイラインとやらを引いているのかもしれない。華奢で色白のその人は三十歳手前くらいか。  まあ、お母さんとは違う。いかにも女の人ですって感じの人。  ちなみに親権ってやつがまだはっきりとは決まってないんだって言ってたから、この彼女さんと一緒に住むこともあるわけ?  いや、ないない。ないな。 「ちょっと近くまで来たから。お父さんの顔を見ておこうと思って。じゃ失礼します」  そう言って廊下に上がった。 「おいおい身体拭いて、着替えてからにしてくれよ」  お父さんが必死な感じで言う。 「一花ちゃん。靴下もびしょ濡れ。今、タオルと着替え持ってくるから」 彼女さんも止めようとする。 「いいからいいから、お構いなく」  私はびしょ濡れで泥だらけの靴下のまま廊下を進んで、開いているリビングのドアの前で振り向いた。 「レモンおいで!」と叫ぶと、玄関に座っていたレモンが勢いよくリビングに飛び込んできた。
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