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翌朝、お母さんと二人で話をした。
「一花の気持ちは分かるけど、暴れるより話をしてきた方がよかったかな。お母さんは、そう思うけど。家の中を汚して、お父さんたちを困らせて、一花、すっきりしたの? 一花の心の方が辛いでしょ。その気持ちをお父さんに、いっぱい話してくればよかったかもしれないわね。もっともお母さんの気持ちもお父さんには通じなかったけど。でも話したから、別れることも決意できたの。……そうね。一花は自分の気持ちをお父さんに話す機会がなかったわね。ごめんなさい。辛い思いをさせたわね。本当は一花にもっと駄目よって言わなくちゃいけないかもね。でも……訊いていてなんだか爽快だったわね。この気持ちは何かしら?」と言って、首を傾げていたが、
「一花が鬼退治って言ってたけど、お母さんの心の中にも鬼がいるのね。一花を叱ることはできないわね」
そう言ってお母さんは私の頭を撫でた。
「お父さんとそのお相手に電話でもして、家の中を汚したりしたことは謝っておかなくちゃね」
それからお母さんと色々な話をした。
お母さんの新しい恋のこともきちんと話してくれた。私は自分がこれからどうしたいかを正直に話した。
その後菫さんの家に行った。
「菫さん、私ね、お婆ちゃんの所に行くことにした。取り敢えず高校卒業するくらいまでは行ってると思う。お母さんともいっぱい話した。お母さんの幸せ、私の幸せを考えた。私、豪快でも強くもない。傷つくし、甘えたいし、泣き虫だし。菫さんは私の気持ちに寄り添っていつも味方になってくれて、離れたくないけど。大切だけど。色々考えて決めた」
「行っちゃうの……切ないなあ……そっかあ……札幌のお婆ちゃんは一人暮らしで、一花のこと前からずっと心配してくれてたものね。それが一花の幸せに繋がるんなら気持ちよく送り出さなくちゃね」
菫さんは潤んだ瞳で、涙を堪えるようにしてたけれど微笑んでくれた。
「ありがとう、菫さん。私ね、お母さんに嫌なことは嫌ってはっきり言った。だってお母さんの彼氏を今は受け入れられない。お母さんは私が一番大切なのよって言ったけど。だけどその人とお母さんが赤い糸で繋がっているなら、私が切るの嫌だもの」
菫さんは私を見つめたまま、うんうんと頷いて訊いてくれる。
「菫さん、前に話してくれたでしょ。コップの水の話。心の中に自分の許容量以上のものが溜まっていって、コップの水が溢れちゃうみたいになったって。私も溢れちゃいそうだから。このままだと。防衛本能かな」
菫さんは私を胸の中に抱き寄せた。
私は菫さんの胸に顔を埋めて静かに泣いた。
「私はここにいるから。一花が帰ってくる場所がここにあるって忘れないでね」
「はい」
「一花。家が四つあるって考えたら? ただいまを言えるところが四つあるって凄くない? お母さんのところ。お婆ちゃんのところ。私のところ。そしてお父さんのところも、ね」
「お父さんの家も? 四つの家か……確かに凄いな。でも、こっちに帰って来た時は真っ先に菫さんのところに来ていい?」
「うん。うん。帰っておいで。春休み。夏休み。冬休み。いつだっておいで。一花は自由だよ。縛られなくっていいんだよ。ここで待ってるからね」
「はい」
「大丈夫。一花は自分の道を自分で決めた。一花はいつか必ず高く跳んで望むものを掴み取っていくことができる」
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