溢れ出す

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溢れ出す

「あ、これ、俺のだよな?」  木の箱の上にそっと乗ってる開いたチョコの箱の中の手紙を指差した。 「あ…」 「ケン君て、俺だよな?さっきの写真も…」 「それは…」 「違う?ならちゃんと違うって言って?」 「ちがく、ない、です…」 「じゃあ俺、もらっていいんだよな?この、チョコ」  そう言って箱を蓋してカタカタと振る。 「え?でも、中身入ってないし」 「入ってんじゃん、手紙」 「でも中身、あたしが食べちゃったから…」 「マジ?欲しかったのに」 「え?」 「うそうそ。箱だけで十分だよ。これ、あれだろ?バレンタイン」 「あ…」 「ありがと。あとでゆっくり読みながら食べるよ。」  ニコッと笑ってケン君はその空き箱に入った手紙を手に帰っていった。  誰もいなくなった部屋。  閉じたはずの蓋があき、中身が溢れ出した。  ケン君への想いは全部集めて思い出と一緒にしまって蓋をしたはずなのに。私の想いも、蓋を開けたとたんに外に出て来てしまった。  いろんな想いが溢れ出す。  ケン君との思い出も、想いも。  全部そこに閉じ込めたはずなのに。  もう、出てしまったものは今さら戻せない。  ミカにも知られてしまった。  ケン君にも知られてしまった。
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