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「花世ちゃん……いないわよね」
迷いモノの部屋は狭い。一目でいないのはわかったのに、わざとらしく声に出してしまうくらい不安に押しつぶされそうだった。
あの子が話してくれた夢の話。アレは何だったのか。
妙にリアルで、初めて話してくれた時は、もう一人の自分が違う世界に生きているようで楽しいと言っていた。
でも、最後に会った時はとても怯えていて、何かに追われているようだった。
――私が私じゃなくなってしまいそう。ここにいるのは自分だけど自分じゃない。そんな感覚がずっと消えないの。
そう言われた時、何故か「置き換えの書」を思いだしたけれど、あの中には花世ちゃんが影響されてしまいそうなモノは書かれていなかったし、当の本人が、引っ越してきた当初の高揚感が消えて、近くに親しい友人がいない寂しさや社会に置いていかれているような気持ちが大きくなっているせいだ、と冷静に分析していたから、私もそうだと思っていた。
置き換えの書は変わらず棚の中で紫色の輝きを放っている。
考えすぎだったか、と安心して手に取り、何気なく開いて手が止まった。
何も書かれていなかったはずなのに、文字がビッシリと書かれている。この字に見覚えがある。これは……読んだ覚えがある。
――夢ノートを作って、覚えていることを書き留めているんです。起きた時の感情も添えて。自分の精神状態も客観的に知れるかもしれないし、やっぱり一度クリニックに通おうと思っているので、先生にも見せられるし。
そう言って花世ちゃんが見せてくれた、これはあの時の夢ノートだ。
どういう事かわからない。混乱する頭で読むことしかできなかった。
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