夢ノート

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夢ノート

八月二十日。 また同じ夢を見た。これで何回目だろう。嫌ではないけれど不思議。 お盆休みに実家に帰っていた間は見なかったから、やっぱり精神的な何かのせいかもしれない。 夢の中では、相変わらず自転車に乗っていた。 一つ違うのは、この坂の先にあるのが「図書館」だとわかったことだ。 何故それがわかったか覚えていないけれど、立派な図書館なんだろうな、とワクワクしながらペダルを漕いだ感触が起きた後にも残っていた。 八月二十二日。 初めてあの夢の中で会話ができた。 自転車を漕ぐのに慣れて余裕ができたからかもしれない。図書館に何があるの?と尋ねると、知らないで向かっているのかと笑われた。それは嫌な笑いじゃなくて、仲の良い友達同士のじゃれ合いのようで、宏斗(ひろと)に起こされてガッカリしたくらいだった。 八月二十五日。 これは忘れていた昔の記憶なんじゃないか。そう思えてしまうほど今日の夢は鮮明だった。 皆で笑い合いながら自転車に跨り、誰が言うでもなく図書館に向かう。決められた日課のように。私はもっと話したかったのに、皆の漕ぐスピードが速くてなかなか追いつけない。泣きそうになっていると、一人の友達が速度を緩めてくれた。 「ありがとう」 「私達はライバルなのよ?そう待ってあげないからね」 「そうなの?私達、友達じゃないの?」 「友達だしライバル。さぁ、早く行かないと先生に目を付けられたら大変」 私達は笑い合って図書館を目指した。 この日からよく夢の中で友達と遊ぶようになった。休み時間に校庭でバレーボールをしたり、歌を歌ったり。学校の外で遊ぶことはなかったけれど、とても懐かしく幸せだった。実際に通っていた場所のようで全く知らないその学校が、実在するんじゃないかと思うようになっている。 夢の終わりは必ず坂道。いくら漕いでも図書館に辿り着かずに終わる。探したらどちらも見つかるのかもしれない。 九月一日。 ついにどうして皆が図書館を目指しているのかわかった。 「あそこに辿り着いたら、欲しい人生が貰えるの。本当に知らなかったの?」 「うん。欲しい人生って?今の人生が良くなるの?生まれ変わるってこと?」 「さぁ、そこまではわからない。辿り着いた人は戻ってこないから」 どちらでも構わないと思った。今が不幸なわけじゃない。病んで仕事は辞めたけど、結婚が決まったんだから人によっては幸せだと思うくらいだろう。日中フラフラしていても怒られない。何をしても自由なのに、どこかがずっと不自由だ。曇りのなかった自分に戻りたい、なんて傲慢なのかもしれないけれどそう願ってしまう。 宏斗に自転車が欲しいと言った。生活するのにあった方が便利だと言えば良かったのに、バカ正直に「夢の中でもっと早く走りたいから」と言ってしまった。優しい宏斗の困ったような顔。もう夢の話はあまりしないほうがいいのかもしれない。
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