おつかれさま

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 タクシーのドアが閉まり、窓ガラス越しに山辺さんが俺に手を振る。これが最後になるかも知れない。そんな背筋の凍る感覚をおぼえた俺を置いて、無情にもタクシーは発車した。  以前住んでいた夫婦の妻が本当に実家に帰ったのか。近隣住民に聞いた話も、誰かから“そう”聞いたという又聞きの情報だった。普通幽霊は運賃など払えない。マンションに入って請求先を探したはず。そして見つけた。夫を亡くした悲しみに暮れる美しい妻を。  こうして考えてみるが、これも俺の憶測に過ぎない。妄想といってもいい。あの運転手の背後に彼を睨み付ける女性の霊が見えていなければ。  俺の力もそこまで万能じゃない。  救える人もいれば救えない人もいる。俺は神様じゃないから。助けを求められれば手を貸すが、見返りがなければまず動かない。  言っただろう。  欲深(よくふか)な生きた人間が一番怖いって。  小さくなるタクシーのテールランプを見送り、軽く頭を下げた。今回の依頼料は貰えるだろうかと考えながら。 「お()かれさま」 ーーendーー
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