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午後十一時。仕事を終わらせて会社をあとにする。人影もまばらなビル街。ポツポツと見えるコンビニや街灯の明かりを横目に、一刻も早く帰るためにタクシーに乗り込んだ。
行き先を告げると運転手はミラー越しに俺を見てから出発した。緩やかな振動を感じながらタクシーの座席に疲れた体を沈める。会話のない車内にカーラジオから流行りの音楽が流れ、俺はガラス越しに過ぎ行く景色を何気なく眺めていた。
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「お客さん、着きましたよ」
運転手の声に目が覚めると見覚えのあるマンションのエントランスが視界に入った。知らない内に眠っていたようだ。
慌ててタクシーから降りると妻の待つ自宅へ向かう。生憎エレベーターは上層階へ向かって上昇中で、しばらく降りてはこないだろう。待つ時間も惜しい。疲れた体に鞭打って四階まで階段を駆け上がった。
明日の休みが楽しみだからか不思議と家へ向かう体は軽く、息切れすることもなく部屋の前へたどり着いた。妻はもう寝ているだろうか。少しの期待を胸に、月のない夜空に背を向けて部屋へ入った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
突然耳に入った知らない男の声に驚いて顔を上げれば、身動きが出来なくなり燃えるような熱さが俺の体を襲う。地獄のような苦しみのなか、最後に見たのは体格のいい見知らぬ男とその背後に立つ見知らぬ女の怯えた表情だった。
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