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話を聞いている間に部屋のなかを見てみたがそれらしい気配も感じられないし、なんとなく理由も見当がついてきた。霊が物を動かすポルターガイスト現象にしては、移動させる対象も少し変わっている。
「……なるほど。ところで、山辺さんはどうして引っ越してきたんですか?」
「え? あ、その……離婚した旦那からの
ストーカー被害が酷くて、警察に禁止命令を出して貰ったんですが、住み続けるのも怖くて引っ越して来たんです」
彼女の話を聞いて確信に変わった。これは霊の仕業ではない。面倒が増えたと思いながら山辺さんの部屋にもう一度視線を向ける。さっき見たときは閉まっていた奥の部屋のドアが少し開いている。そういうことだ。
「そうでしたか……それでは山辺さん。今日、帰ってきたときも“おかえり”は聞こえましたか?」
「ええ、今日も私が『ただいま』と言ったら返ってきました。でもさっきの除霊で明日からは安心して過ごせます!」
本当に安堵したのか少し肌の血色が戻ってきた彼女には悪いが、まだ安心するのは早いだろう。ドアの隙間から不気味な目がこちらを睨み付けている。
今、確実に目が合った。どうやら追加料金を貰えそうだとほくそ笑む。
「山辺さん、警察に電話してください」
「えっ? どうしてですか?」
のんきに首を傾げて尋ねてくる彼女を横に押し退け、奥の部屋から飛び出してきた男を取り押さえる。酷く取り乱して暴れる男を見た瞬間、山辺さんの顔は恐怖の色に染まった。
「どうしてっ、なんでここが分かったの?! バレないように引っ越してきたのに!!」
隠れていたのは彼女の元旦那だった。
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