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到着した警察に暴れる男を引き渡し、事情聴取のために山辺さんと俺も警察署へ同行することに。取調室では男を取り押さえるまでの事情を正直に話したが、彼女の部屋へ訪れた理由として伝えた「霊を除霊するため」という話はあまり信じてもらえなかった。彼女の新しい男とでも思われたようだ。
事情聴取もそこまで時間は掛からず、普段見ることが出来ない物珍しい警察署内を見学しつつ出口へ向かう。そこには先に取り調べを終えた山辺さんが立っていた。
まだ暗い道を二人並んで歩く。途中でタクシーを拾う予定だったが、近くの飲み屋街に出払っているのかなかなか通りかからない。さっさと帰りたい気持ちを表に出さないようにしていれば、黙っていた山辺さんが静かに話し出した。
「その、直接お礼を伝えたくて。あの人は不法侵入したこととストーカー行為でしばらくは出て来られないだろうから……本当に、ありがとうございました」
「いえいえ、一応危険手当ということで除霊の分と合わせて後日請求させてもらいますのでよろしくお願いします」
「それはもちろん構いません。あなたがいなかったら、私はどうなっていたか……その、今度よかったら一緒にお食事でも」
横に並んで歩いていた彼女が少し近付いてきたかと思えば、俺の左腕を抱き締め上目遣いで見上げてくる。街灯に照らされた彼女の目の奥にはどろどろとした欲が煮え立って見えた。あの元旦那があれほど執着を見せる原因が、少し垣間見えた気がした。
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