304人が本棚に入れています
本棚に追加
学校に上がる前、家族で泊まりがけで旅行に行った時、私は自分専用のシャンプーセットを買ってもらった。
シャンプーとリンスがセットになっていたけど、今私が持っているのはリンスだけ。
シャンプーは冷にあげたからだ。
『美容院ごっこしようよ!こころね、自分のシャンプーあるの!』
真夏の太陽が照りつける中、汗で髪の毛がベタベタして気持ち悪いと言った冷にそう提案して、公園の水道で髪の毛を洗い合った。
結局服も水浸しになっちゃって、2人でゲラゲラ笑ったっけ。
———————ねえ、冷は覚えてる?
私、冷にシャンプーをプレゼントしたよね。お揃いで持ってようねって、言ったよね。
冷は今でも、持ってくれてる?
「⋯⋯⋯⋯」
目を閉じると、“男の人”になった冷の姿が浮かんでくる。
“消えろ”
⋯⋯無理だよ。
何があっても、冷だけは消せないよ。冷の存在が私の中でどんなに大きいか、わかってないからそんなこと言うんでしょう?
もう一度だけ会いたかった。会ってちゃんと話がしたい。
昨日ので終わりだなんて、そんなの嫌だった。
「⋯⋯同じ学校って言ってたよね」
朔也さんの着ていた制服を思い出す。ここから電車を乗り継いで、1時間もあれば着くはずだ。
気付けば家を飛び出していた。
最初のコメントを投稿しよう!