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私でも冷でもない声が響いたのはその時だった。
「冷、取り込み中?」
扉の方に目を向けると、立っていたのは男子生徒だった。彼は冷を見て私を見て、そして微妙な空気を感じ取ったのか少しだけ眉を寄せる。
「もう終わった」
「冷っ、待って!」
呼んでも振り向いてもくれない。
「冷!」
それでも諦められなくて声をかけ続ける私を、男の人は静かに凝視していた。
「冷⋯⋯っ!」
扉が閉まって、2つの足音が遠ざかっていく。シンとした室内に自分の声が響いて、私はぺたりと床に座り込んだ。
—————————探さなくちゃ、リンスボトル。大丈夫、少しだけ休んで心を落ち着けて、それでまた立ち上がればいい。
大丈夫、昨日より話が出来た。自分の言いたいことを言えた。頑張ったよ。それに冷を見るとやっぱり昔の面影を感じるもん。
冷は冷だよ。消えたりなんて、してない。
「⋯⋯っがんばれ、私」
ガクガクと震える身体にも、心が悲鳴を上げてることからも目を背けて、それでも諦めたくなかった。
まだ動ける。なら後悔せずに最後まで頑張りたい。ボロボロになってもいいの。冷のことに関しては、中途半端なまま終わりたくないの。
————————視聴覚室の真下は裏庭になっていて、もう随分と放置されているのか雑草が生い茂っていた。
私は地面に這いつくばって雑草をかき分けるようにして探しながら、暗くなるまでそこにいた。
だけどいくら探してもリンスボトルは見つからなかった。
「⋯⋯あれが冷の“こころ”か」
そしてそんな私を冷を呼びに来た男子生徒が遠くから見ていたことなんて、気付くはずもなかった。
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