冷の世界

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場所を移動して、なぜか自販機の飲み物を奢ってもらい(「自分の買うついでだから」と流れるように奢られてしまった。行動までイケメン)、お礼を言ってそれを受け取ると、彼は私にあるものを渡した。 「はい、これ。落とし物」 「⋯⋯えっ?」 びっくりするほどあっさりと手渡されたそれは、これから探しに行こうと思っていたリンスボトルだった。 ど、どうして? 喜びよりも驚きが勝ってしまって、ぎょっとして目の前の彼を見ると「あれ、違った?」と微笑む。 「この前裏庭で何か探してなかった?なんか気になって今日見てみたら、これがあったから」 「私のだけど⋯⋯⋯⋯どうしてわざわざ」 「必死そうだったから、そんなに大事なものなのかと思って。それに名前も書いてあったし」 ボトルの裏側には、幼い子が書いたような字で「こころ」と書いてあった。正真正銘、私が書いたものだ。買って貰ったことが嬉しくて、シャンプーとリンスのボトルに書いたのだ。 「⋯⋯⋯⋯」 嘘みたい。こんなに都合の良いことが起こっていいの? 最初はよく理解できなかった今の状況にじわじわと実感が湧いてきて、同時に目の前のイケメンが神様みたいに思えてくる。 「⋯⋯ありがとう」 「どういたしまして」 「本当にありがとう!」 この手に戻ってきた宝物。大丈夫だよ、と言われてるようだった。 大丈夫、頑張っていいよ。冷はきっと振り向いてくれる、わかってくれる。また昔みたいに戻れるよ。 そんな風に⋯⋯⋯自分の中で思うくらいはいいよね?
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