冷の世界

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「⋯⋯冷」 聞こえるはずもないのに、無意識にそう呟く。 「うわああああ!やめろ!やめてくれ!!」 冷は服も手も血だらけだった。でもそれ以上に冷の周りにいる人達は血だらけで。その事実が冷の強さを物語る。 「頼む!悪かったよ、俺らが悪かったから!!」 「⋯⋯⋯⋯」 「もうお前には何もしねえよ!誓う!だからこれ以上はもうやめてくれ!」 「⋯⋯⋯⋯」 「っ、死んじまうよ⋯⋯⋯」 立っている人が数人で、倒れてる人はその倍。顔面を殴られた男がへたり込んで、周囲を見渡しながら懇願する。 だけど冷はぴくりとも表情を動かさず、真顔のまま言った。 「じゃあ死ね」 悲鳴が聞こえる。冷が与える暴力に泣き喚く声が聞こえる。 ———————あれが“今”の冷。 無表情で無感情で、人を殴り、踏みつけ、助けてと言われてもまだ殴る。いくら懇願しても逃がしてもらえずその痛みを受け止めるしか術がない。 尋常じゃない。そう断言出来るほど一方的かつ行き過ぎた暴力だった。 「っ、お、お願⋯⋯⋯も⋯やめ⋯⋯っ!」 笑ってもいない、泣いてもいない。ただ“無”。まるで同じ人間だなんて思ってないみたいに。 その鋭く一切躊躇のない姿は、獣のようだった。 「これが今の冷の日常。あいつ、自分に向かってくるやつ人間だってわかってないんじゃないかな。殺す手前までやるから。つーか案外もう死んでるやついるかも」 朔也さんと同じようなことを言う静の声を聴きながら、視線は冷に釘付けだった。
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