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「あいつに近付くな」
私を引っ張るようにして歩きながら、冷が振り返りもせずに言った言葉に拍子抜けした。
「え?」
「わかったな」
「冷⋯⋯怒ってないの?」
私、また冷の目の前に現れたのに。冷は絶対怒ってると思ったのに、その音色は怒ってると言うより言い聞かせてるようで。
「いいから近付くな」
「⋯⋯⋯⋯」
「返事しろ」
静は、冷と自分は「友達じゃない」と言った。それに自分のことを「いい人じゃないかも」とも。
冷にとって、静はどういう人なんだろう。今まで相手にしてなかった私にこんなこと言うくらいってことは、それだけ大きな存在ってこと?
私は⋯⋯⋯
「い、嫌だ」
立ち止まって言うと、冷が眉を歪めて振り返る。とても厳しい表情だけど、引くつもりはなかった。
「静はいい人だもん。私、友達いないし⋯⋯⋯仲良くしてくれる人は貴重だから」
「⋯⋯随分と仲良くなったもんだな。もう呼び捨てか」
「い、いいでしょ別に」
「それで、あいつから俺のこと探るのを見て見ぬふりしろって?消えろって言ったろ」
「お⋯⋯おかしいよ。私が一緒にいたいって言っても冷は聞いてくれないのに、どうして私は冷の言うこと聞かなきゃいけないの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「そんなの、絶対おかしい」
強気になれたのは、きっと静のおかげだった。
友達のいない私にとって、下の名前で呼び合える人の存在はとても嬉しいものだった。
もしかしたら何か企んでるのかもしれない。でもそんなこと、別に大した問題じゃないように思えてくるのだ。
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