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「わたしには⋯⋯冷は特別だもん。ずっと冷しかいないもん。冷との約束があったから今まで頑張れたんだよ」
「あれだけ言われたら嫌いになるだろ」
「ならないよ」
「⋯⋯⋯⋯」
「嫌いになんて、絶対にならない⋯⋯⋯なれないよ」
お願い、と再会してからもう何度も言った言葉を繰り返す。
「そばに置いて。それだけでいいの。邪魔しないよう大人しくしてるから⋯⋯⋯近くにいたいの」
「⋯⋯⋯⋯」
「お願い⋯⋯⋯」
呆れられてるって、わかってるの。うざいし鬱陶しいって、私が冷でも絶対思う。
どこまでしつこい女なんだって。
でも、それでも冷を諦められない。そばにいたい。会いに行ける距離にいるなら会って姿を見たい。
「必要以上に近付くな」
——————え。
顔を上げると、冷が私を見下ろしていた。感情の読めない、あの暗い瞳で。
「触るな。話しかけるな。過去を探るな」
「⋯⋯⋯⋯」
「それが出来るなら、お前の言うことを聞いてやる」
「い⋯⋯いいの?」
「ああ」
「本当?」
「どっかの誰かがしつこくて面倒だからな」
本当?
やっぱりやめたって言わない?嘘じゃない?
でもそんなことを聞いたらまた怒らせてしまいそうで、私はコクコクと首を縦に動かす。
「言う通りにする!絶対する!冷っ、ありがとう!」
嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねながら思わず抱きつこうとした私に「触るなって言ったろ」と冷たく吐き捨てる。
「あっ、ごめん」
「⋯⋯⋯⋯」
「えへへ」
にこにこ笑う私は、冷にはとんでもなく単純でバカな女に見えたに違いなかったけど、そんなことは全く気にならなかった。
——————でも後から思えば、この時の私はなんて能天気だったんだろうって思うの。
冷の気持ちも知らずに自分のことばかり。
冷、ごめんね。何も気付けなくて、私は昔から貰ってばかりだったね。
本当にごめんね。
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