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Side 静
工場街から戻った俺は、冷が暮らすマンションにいた。
「あの子の父親が誰か知ってるか?」
ここに来るのは久しぶりだ。
冷がここで暮らし始めて数年が経つが、相変わらず殺風景な部屋だ。ファミリータイプのマンションだから部屋数は多いのに、冷はリビングしか使ってない。
寝室もなく、寝る時はソファの上。食器棚にはグラスの1つもなく、だけどキッチンは何故か調味料類が丁寧に並べられていた。
⋯⋯⋯自炊するのか?皿もないのに?
「古賀泉。本条組の組長最側近だよ」
ソファに座る冷が気怠げに視線だけを動かす。それがどうした、と言うように。
「やっぱり知ってたか」
「⋯⋯⋯⋯」
「まあとっくに調べてるよな。お前があの子のことで知らないことなんかないだろ?」
数日前に知った事実に驚いた。まさかあの子が本条組と繋がりがあるなんて。
これは偶然なのか必然なのか。正直、不気味ですらあった。
「でもあの子は知らないよな。お前の引っ越した先が三井組だなんて」
————————三井組。
本条と比べると、小さすぎて比較対象にもならない規模の組織だ。でもその分身内同士の繋がりは強固で、自分達の動くべきポイントとタイミングは絶対に逃さない。
そして多くの組織が乱立するこの地域において本条との関係は悪くはないが良くもない。
時折小さなトラブルはあれど、今のところ均衡は保たれている。
「しつこいからそばに置くって言うのもわかるけど、本当にいいのか?あの子の立場が悪くなるかも」
「⋯⋯どの口が言ってんだ。自分からあいつに近付いといて」
「⋯⋯⋯⋯」
「お前はどうなんだよ。三井静」
そんな三井組は、俺の生まれた家だった。
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