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言い返す気はなかった。本当のことだし、俺には純に恨まれる道理がある。
だけどそれでも口を開いたのは、不意に何かを言ってやりたくなったのかもしれない。
「“こころ”に会ったよ」
「え?」
「純も知ってるだろ、冷の昔の友達」
誰にも触らせなかった、冷の唯一の所有物。そこに書かれた名前を、純が知らないはずがない。
その証拠に、強気な瞳が一瞬にして不安でいっぱいなった。
「は、何⋯⋯どういう事⋯⋯?」
「偶然再会したんだよ」
「⋯⋯それで?」
「冷のそばにいたいんだってさ。冷は最初拒んでたけど、あんまりしつこいからさっき折れたとこ」
「⋯⋯なんで今更」
「あっちにとっては“今更”じゃないんだろ」
それだけ言って、俺はマンションを後にした。
一度も振り返らなかったから、純がどれほど悲壮な顔付きでいるかはわからなかった。
黙々と歩きながら、心と交わした言葉を思い出していた。
「⋯⋯友達なんて言えるかよ」
加害者と被害者。償う者と償われる者。
俺は冷に、償いきれない罪があった。
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