あの音

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 半年くらい前に夢を見た。内容は全く覚えていないが、何かの音が鳴り響いた記憶だけはある。でも、それがどんな音だったのか思い出せない。  しょせん夢だ、気にするな。そう思っていたけれど、頭の奥で、聞こえないのに何かの音が響いている感じがする。それを気にせずにいられる訳がない。  あれはどんな音だった? それが思い出せれば、きっと夢の内容も思い出せる。でも肝心の音が甦らないのだ。  そんな状態でもう半年。最近は神経がすり減ってきていて、どこかの心療内科にでも行こうかと、本気で考え始めていた。  その時、唐突に思い出したんだ。夢の中で鳴り響いていた『あの音』を。  きっかけは、たまたま見かけた時代劇の舞台のポスター。役者勢が衣装に身を包んだ写真の片隅に、小物として『それ』は描かれていた。  実物は見たことがないけれど、テレビなどで見た覚えのあるほら貝。やはり実際に聞いたことはないが、その音は時代劇などで何度となく耳にしたことがある。  吹いた時の、あの独特な音色。それが響き渡るのは戦場。  そう、ほら貝が鳴り響くのは今から戦が始まる証。  音を思い出すと同時に夢の内容が甦る。その光景がたちまち目の前に広がっていく。  俺が時代を遡ったのか、はたまた、現世が突如戦国の世に成り代わったのか。  俺の立つ側にいる大群。対するのも、同様に大量の兵士達。そこに響き渡るほら貝の音。  続く怒号と人馬が駆け出す足音。  戦が始まる。逃げられない俺は、その狂気の中に飲み込まれていくしかない…。 あの音…完
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