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母との別れ
千景の母は、余命宣告を受けた翌月、入院先の病院で亡くなった。最期の時、千景は母の手を握りながら、息を引き取るのを見届けた。心の中にぽっかりと穴が開いたような喪失感を感じながらも、その後は千景がやらなければならないことが山積みであり、泣く暇もないほどに慌ただしい日々が過ぎた。
「マスカレード」は、マスターに事情を説明してしばらく休ませてもらうことにした。電話で近況を連絡した時には、涙しながら、まるで自分のことのように悲しみ、千景を気遣うマスターの優しさに改めて触れ、心の底から感謝した。
◇◇◇
冬馬は、勤務している病院で千景の母の死を知った。
「マスカレード」へ行っても千景が休みであることが2回ほど続き、心配をしていた矢先のことだった。
ある日の休憩時間、リハビリ室前の長椅子に同僚と腰かけて話をしていたら、同僚が突然千景の話を始めた。
「なぁ、時々この椅子に座ってた男の子知ってるか?ハタチくらいの」
「……知ってるよ。結構前からよく見かけたよね。彼がどうかしたの?」
「お母さんが亡くなったみたいだね。この間、たまたま霊安室の前を通った時にみかけてさ。顔色が真っ青だった。お父さんはいないのかな。いつも一人だったけど」
「――……」
冬馬は言葉が出なかった。天井を見上げて涙がこぼれないよう堪えることで精一杯だった。1か月くらい前、千景と初めてキスをした日の弱々しい彼の笑顔を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。
(チカちゃん、ずっと一人で頑張ってたんだね。あの華奢な体でどれだけのものを背負っていたの?今、何を考えてる?助けてあげたいよ。会いたい……)
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