1、きらわれて

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 ドットの短い体毛は、一本のまじりっけもなく、すべてが黒色でした。  すべての光を()いこんでしまいそうな、とてもきれいな黒の毛色でしたが、明るい場所でそれを見ることは、まずありません。  ドットは、人間の起きている日中は(まち)のすみっこ、だれも気づかないような暗がりにじっと動かずにいました。  そして日が落ちて、人間が通りにいなくなったころ、(やみ)にまぎれて、街の中を食べ物を(さが)してさまようのです。  ドットはいつも一人ぼっち。  人間はもちろん、同じねこからも、彼はきらわれていました。一緒(いっしょ)にいると毛色がうつるとからかわれ、いつもいつも、いじめられていました。  そのうち、他のねこたちの姿(すがた)を見かけると、ドットはすぐにかくれるようになりました。  どうせみんな、自分のことをバカにする。それならいっしょにいない方がいい。(きず)つけられるくらいなら最初(さいしょ)っから、かかわらない方がよっぽどましだ。  人間からも、ねこたちからも、さらに見つかれば、すぐにからかってくるカラスたち、とにかく追いかけ回してくるノラ犬たちからも、身を小さくしてかくれる毎日。そんなイヤなことだらけの街中(まちなか)で、(かれ)は自分の毛色そのものの闇にまぎれ、暗がりから暗がりへとわたり歩いて、日々を何とか生きていました。  そんなある日、ノラ犬に見つかった彼は、命からがらにげました。にげて、にげて、にげつづけて、ようやく夕焼(ゆうや)けがしずみ、夜のとばりが下りたころに、にげのびることができました。彼はいったん、石造(いしづく)りの陸橋(りっきょう)に上がって身をかくしました。  足もとの通りをノラ犬たちが走りぬけていきます。  何をしたわけでもなく、何を言ったわけでもなく、何の理由もなく犬たちは追いかけてくる。つかまったからといって、食べられるわけではないけれど、ただただ(いた)めつけられる。時には命を落とすくらいに。  ただ、ただ、おそろしい。追いかけられることも、痛めつけられることも、死ぬこともイヤだ。だけど、力ではとうていかなわない。だからとにかく見つからないように気をつけるしかない。  そう思いながら身をかくしている間に、犬たちの足音が聞こえなくなりました。どうやら今日もやりすごせたようです。  確認(かくにん)のため、陸橋の手すりの上に飛び乗って、周囲(しゅうい)を見わたしたその時、陸橋のはしっこからのびる道の横、背の高い石づみの建物(たてもの)窓辺(まどべ)に彼の目がくぎづけになりました。
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