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ドットの短い体毛は、一本のまじりっけもなく、すべてが黒色でした。
すべての光を吸いこんでしまいそうな、とてもきれいな黒の毛色でしたが、明るい場所でそれを見ることは、まずありません。
ドットは、人間の起きている日中は街のすみっこ、だれも気づかないような暗がりにじっと動かずにいました。
そして日が落ちて、人間が通りにいなくなったころ、闇にまぎれて、街の中を食べ物を探してさまようのです。
ドットはいつも一人ぼっち。
人間はもちろん、同じねこからも、彼はきらわれていました。一緒にいると毛色がうつるとからかわれ、いつもいつも、いじめられていました。
そのうち、他のねこたちの姿を見かけると、ドットはすぐにかくれるようになりました。
どうせみんな、自分のことをバカにする。それならいっしょにいない方がいい。傷つけられるくらいなら最初っから、かかわらない方がよっぽどましだ。
人間からも、ねこたちからも、さらに見つかれば、すぐにからかってくるカラスたち、とにかく追いかけ回してくるノラ犬たちからも、身を小さくしてかくれる毎日。そんなイヤなことだらけの街中で、彼は自分の毛色そのものの闇にまぎれ、暗がりから暗がりへとわたり歩いて、日々を何とか生きていました。
そんなある日、ノラ犬に見つかった彼は、命からがらにげました。にげて、にげて、にげつづけて、ようやく夕焼けがしずみ、夜のとばりが下りたころに、にげのびることができました。彼はいったん、石造りの陸橋に上がって身をかくしました。
足もとの通りをノラ犬たちが走りぬけていきます。
何をしたわけでもなく、何を言ったわけでもなく、何の理由もなく犬たちは追いかけてくる。つかまったからといって、食べられるわけではないけれど、ただただ痛めつけられる。時には命を落とすくらいに。
ただ、ただ、おそろしい。追いかけられることも、痛めつけられることも、死ぬこともイヤだ。だけど、力ではとうていかなわない。だからとにかく見つからないように気をつけるしかない。
そう思いながら身をかくしている間に、犬たちの足音が聞こえなくなりました。どうやら今日もやりすごせたようです。
確認のため、陸橋の手すりの上に飛び乗って、周囲を見わたしたその時、陸橋のはしっこからのびる道の横、背の高い石づみの建物の窓辺に彼の目がくぎづけになりました。
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