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1、きらわれて
昔々、ある所に、背の高い石造りのかべに囲まれた、たくさんの人々が住む街がありました。
その街では数年に一度、きまって病気がはやりました。たくさんの人が苦しみましたが、薬は少なく値段が高いので、なかなか手に入りません。だから病気がはやるたびに、たくさんの人たちが死んでしまいました。
また数年に一度、雨が降らなかったり、降りすぎたりして、食べ物がとても少なくなってしまうことがありました。するとお金を持っていない人は、食べ物が手に入らなくて、お腹をすかせて苦しんで、多くの人が死んでしまいました。
そんな、この上なく悪いことが起こるたびに、この街の、お城に住む人や、教会のえらい人たちが言いました。
――これは、きっと魔女のせい。
街の人たちはその言葉をすぐに信じます。
なぜって、魔女は人を苦しめる悪者だと、昔からその街では言い伝えられてきていたからです。
そしてこんな言い伝えもありました。
――黒ねこは魔女の使い魔。
暗がりから、いつも見張っていて、人間が、魔女よりもよい生活をしていたり、魔女のことをバカにするようなことを言ったりすると、それを魔女につげ口するんだそうです。おこった魔女が、のろいや魔法で病気をはやらせたり、食べ物を少なくしたりするのです。
魔女は高いかべの外、この街から遠くはなれた所にいます。魔法を使い、のろうことだってできる魔女にはだれもかなわない。だれも魔女のすることを止めることができません。でも、その使い魔なら、だれでも、にくんで、こらしめることができそうです。
だから黒ねこが目の前にいたら、すぐに、つげ口ができなくなるくらいに痛めつけてやろうと、だれもが、ののしり、ホウキを持って追いかけ回しました。
そんな感じなので、とてもじゃないけれど黒ねこにとって、この街はただ生きるだけでもむずかしいところでした。
そしてこの物語の主人公、ドットも全身真っ黒なねこでした。
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