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神様に忘れられた楽園 1
シリル・テイラーが初めてレイのもとへ現れた日、レイ・シルヴァーは「自分の運命が空から降ってきた」と感じた。大きく見開かれた若葉色の目、鮮やかな赤毛の髪、顔に広がるそばかす。シリルは正しくて強い、美しい子供だ。美しすぎて神様が嫉妬したから、かわいいそばかすをつけられたんだ、と。
レイは当時、シリルよりも小さく鈍い子供だった。黒い髪に鳶色の目、神様は自分を何て平凡に作ったのだろう。シリルは赤毛とそばかすで子供たちに苛められたが、本人は平然としていた。
シリルは子供たちのヒーローだった。喧嘩が強くて、足も速かった。レイは周囲にシリルの子分のように扱われていた。気まぐれなシリルにどこまでも付き添う、愚直な騎士。シリルはやがてレイとだけ遊ぶようになった。
ふたりが七歳のとき、フルーツケーキの香りつけに使うウイスキーを飲んで酔っ払ったことがあった。
レイの母親がウイスキーの瓶を戸棚に置いていたのを、シリルが見つけた。
「飲んでみようぜ」
二階のレイの部屋で、ふたりはウイスキーを味見した。いい香りだが、口が曲がりそうな味だった。大人はどうしてこんなものを飲んでいるのだろう。首をひねりながらチビチビと舐める。
シリルの顔が真っ赤に染まった。
「気持ちいい。何これ」
シリルがコップにウイスキーを注ぐ。口が痺れるのに慣れたころ、レイの身体が軽くなってきた。
ふたりは顔を見合わせると、わけもなく笑い出した。頭がフワフワと浮き上がって、いい気分だ。シリルが立ち上がると木の床を回り出した。お前も立てよ、とレイの両腕を引く。
ふたりは笑いながら手を繋いでその場を駆け回った。空を飛んでいるようで気持ちいい。ふたりは全力で回転すると、床にどさりと横になった。自分が動かなくても、部屋がぐるぐる回っている。
シリルは笑い転げながら、レイの腕を掴んだ。
「僕が止まっても、世界が回ってる。メリーゴーランドだ! 世界はメリーゴーランドだ!」
ふたりは帰ってきたレイの母親に叱られた。レイの母親はレイによく似た黒い髪と浅黒い肌の女だった。
「子供が何をやってるんだ!」
「何で子供だけ飲んじゃいけないんだ。子供が飲んじゃいけないものなら、大人だってやめるべきだ」
シリルに反撃されて、レイの母親は顔を紅潮させた。
「ガキにはわからないことなんだよ!」
シリルはつまらなそうに、行こうぜ、とレイの袖を引っ張った。
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