習慣

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「ただいま。」 一人になっても、挨拶する習慣は抜けなかった。 午後8時、一人暮らしには広い家。 人気がなく、少し冷たい空気が音を響かせ、広い空間に空しく消える。 仕事で疲れた体を引きずり、荷物を置いて、夕食の支度をするために冷蔵庫へ向かった。 はぁ、冷蔵庫の中身を確認して、ため息をつく。 向き先を変え、ガラス戸の食器棚を開く。そして、一番下に無造作に入れられたカップ麺を漁る。 買い溜めたものの中から、今の気分に合うものを選んだ。 台所まで歩き、お湯を沸かすために電気ポットに水を注ぐ。 ついこの間まで家族分の食事を作っていたはずなのに、長い間、包丁を握っていないような気がする。 カップ麺が完成するまでの間、ベランダに出て洗濯物を取り込む。 すべての洗濯物を家の中に入れたところで、3分が立ち、タイマーがピピピッと鳴る。 畳むのは後にして、麺が伸びてしまう前に食べてしまおう。 「いただきます。」 忘れていたことは、決まってそんな時に思い出す。 あっ、スーツ 帰りにクリーニング屋から黒のスーツを受け取ってくるんだった。 まあ、いいか。また別の日に取りに行けば。 母は厳格な人だったから、そんなこと言うと 「さっさと受け取りに行きなさい。一つの妥協を許すと、必ず他のことも投げやりになります。」 と叱られたものだ。
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